株式会社等の会社・法人の登記簿謄本では、代表取締役等の代表者の住所が公示されています。近年、個人情報保護の重要性がますます高まる中、会社設立や経営に関わる情報公開についても、プライバシー保護の観点から議論が進んでいます。その一環として、会社の登記情報として記載される代表取締役の住所の非表示を可能にする制度が創設されました。本記事では、この非表示制度について詳しく解説し、そのメリットや注意点について考察します。

代表取締役等住所非表示措置について
目次
1.代表取締役等住所非表示措置とは
2.非表示の申出の手続
3.メリットと注意点
4.非表示措置が講じられた場合の登記事項の表示
5.代表取締役等住所非表示措置の継続
6.代表取締役等住所非表示措置の終了
1.代表取締役等住所非表示措置とは
概要:
代表取締役等住所非表示措置の制度は、商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)によって創設されました。この制度は、一定の要件の下、株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人の住所の一部を登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービスに表示しないこととすることができるものです。
2.非表示の申出の手続
必要とされる要件:
代表取締役等住所非表示措置の申出をするには、次の要件を満たす必要があります。
- 登記申請と同時に申し出ること
- 所定の書面を添付すること
それぞれについて見ていきましょう。
i. 登記申請と同時に登記官に対して申し出ること
代表取締役等住所非表示措置の申出は、次の場合にすることができます。
- 設立の登記、代表取締役等の就任の登記、代表取締役等の住所移転による変更の登記など、代表取締役等の住所が登記されることとなる登記
- 設立の登記、代表取締役等の就任の登記、代表取締役等の住所移転による変更の登記など、代表取締役等の住所が登記されることとなる登記
- 本店を他の登記所の管轄区域内に移転した場合の新本店所在における登記であって、既に登記されている代表取締役又は代表執行役の住所から変更がない場合にも、申出をすることができます。
なお、申出をする場合には、登記の申請書に、以下を記載する必要があります。
- 代表取締役等住所非表示措置を希望する旨
- 代表取締役等住所非表示措置の対象となる者の資格、氏名及び住所
- 申出に当たって添付する書面(実質的支配者リストの保管の申出をしている場合は、その旨及び申出先)
登記申請をオンラインで行う場合は、「その他の申請書記載事項」に申出事項を記入します。
※申出の記載例は、以下の法務省のHPをご参照ください。
申出の記載例1【PDF】(代表取締役の住所移転の登記の申請と併せて申出をする場合)
申出の記載例2【PDF】(取締役会設置会社が代表取締役の就任の登記の申請と併せて申出をする場合)
ii.所定の書面を添付すること
①上場会社である株式会社の場合:
添付書類:株式会社の株式が上場されていることを認めるに足りる書面
例:株式会社の上場に係る情報が掲載された金融商品取引所のホームページの写し等
- 株式会社の商号に加え、設立年月日や代表取締役の氏名など、既に登記されている事項と同じ内容が記載されているものを添付する必要があります。
- 当該株式会社の代表取締役等の奥書等は不要です。
- 既に代表取締役等住所非表示措置が講じられている場合は添付不要です。
②上場会社以外の株式会社の場合:
添付書面:以下の(1)から(3)までの書面
(1) 株式会社が受取人として記載された書面がその本店の所在場所に宛てて配達証明郵便により送付されたことを証する書面等
・株式会社が受取人として記載された配達証明書(株式会社の商号及び本店所在場所が記載された郵便物受領証についても併せて添付)
配達証明書又は郵便物受領書に記載された株式会社の商号又は本店所在場所が登記記録と合致しない場合は不可
・登記の申請を受任した資格者代理人(登記申請代理人を業として行うことができる代理人に限る)において株式会社の本店所在場所における実在性を確認した書面(法務省サイトをご参照ください:PDF Word)。
(2) 代表取締役等の氏名及び住所が記載されている市町村長等による証明書
- 住民票の写し
- 戸籍の附票の写し
- 印鑑証明書
(3) 株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面
株式会社が一定期間内に実質的支配者リストの保管の申出をしている場合は添付不要
実質的支配者リストの保管の申出については、法務省のサイトをご参照ください:実質的支配者リストの保管の申出
・登記の申請を受任した資格者代理人(司法書士又は司法書士法人に限る)が犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号)の規定に基づき確認を行った実質的支配者の本人特定事項に関する記録の写し
・実質的支配者の本人特定事項についての供述を記載した書面であって公証人法(明治41年法律第53号)の規定に基づく認証を受けたもの
但し、代表取締役等住所非表示措置の申出と併せて行う登記の申請の日の属する年度又はその前年度に認証を受けたものに限ります。また、記載事項として、実質的支配者の氏名、住居及び生年月日が必要。
・公証人法施行規則(昭和24年法務府令第9号)の規定に基づき定款認証に当たって申告した実質的支配者の本人特定事項についての申告受理及び認証証明書
但し、代表取締役等住所非表示措置の申出と併せて行う登記の申請が当該株式会社の設立の日の属する年度又はその翌年度に行われる場合に限る。
なお、既に代表取締役等住所非表示措置が講じられている場合は、(2)のみの添付で足りる。
3.メリットと注意点
メリット:
- プライバシー保護: 住所が公開されないことで、個人情報漏洩のリスクを軽減できる。
- 安全性の向上: 自宅住所の公開を避けることで、ストーカーや嫌がらせ行為のリスクを軽減できる。
- 安心感の向上: 経営者が安心して事業活動に専念できる。
注意点:
- 登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないこととなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の影響が生じることが想定される点。
- 会社法に規定する登記義務が免除されるわけではないため、代表取締役等の住所に変更が生じた場合には、登記申請をする必要がある点。
- 登記の申請書には代表取締役等の住所を記載する必要がある点。
4.住所非表示措置が講じられた場合の登記事項の表示
登記事項証明書等において、代表取締役等の住所は最小行政区画までしか記載されないこととなります(市区町村まで(東京都においては特別区まで、指定都市においては区まで))。
5.代表取締役等住所非表示措置の継続
代表取締役等住所非表示措置が講じられている株式会社の登記の申請があった場合において、代表取締役等住所非表示措置が講じられている代表取締役等の住所と同一のものを登記するとき(本店を他管轄区域内に移転した場合の新本店所在地における登記、住所に変更がない重任又は再任の登記など)は、改めて代表取締役等住所非表示措置の申出することをなく、引き続き代表取締役等住所非表示措置が講じられます。
一方、代表取締役等住所非表示措置が講じられている代表取締役等であって、当該代表取締役等の住所に変更がある登記を申請する場合には、改めて代表取締役等住所非表示措置の申出が必要となります。
代表取締役等住所非表示措置の申出がされずに住所に変更がある登記が申請された場合、新しく登記される住所については代表取締役等住所非表示措置が講じられないため、注意が必要です。
6.代表取締役等住所非表示措置の終了
以下の場合、登記官が職権で代表取締役等住所非表示措置を終了させます。
1 代表取締役等住所非表示措置を希望しない旨の申出があった場合
別添の申出書を提出することにより行います。
申出書には代表取締役等住所非表示措置を希望しない代表取締役等の氏名及び住所を記載し、申出書又は委任による代理人の権限を証する書面に申出を行う株式会社が登記所に提出している印鑑を押印する必要があります。
なお、代表取締役等住所非表示措置を希望しない旨の申出は、登記申請と同時である必要はなく、単独で行うことができます。
・代表取締役等住所非表示措置を希望しない旨の申出書(法務省サイトをご参照ください:PDF Word)
ます。
2 株式会社の本店所在場所における実在性が認められない場合
代表取締役等住所非表示措置が講じられた株式会社について、その本店が登記上の所在場所に実在しない蓋然性が高いと考えられる場合、登記官が別添の通知を株式会社の本店に宛てて送付し、一定の期間内に返送等がない場合は代表取締役等住所非表示措置を終了させます。
なお、本店所在場所における実在性がない旨弁護士等の資格者から情報提供があった場合などには、当該通知を送付することなく代表取締役等住所非表示措置を終了させることがあります。
・本店所在場所における実在性に関する通知(法務省サイトをご参照ください:PDF)
3 上場会社でなくなったと認められる場合
代表取締役等住所非表示措置が講じられた株式会社から、株式譲渡制限の定款の定めの設定による変更の登記が申請された場合*などには、上場会社でなくなったものと判断し、代表取締役等住所非表示措置が終了します。
なお、株式譲渡制限の定款の定めの設定の登記と同時に改めて代表取締役等住所非表示措置の申出があった場合は、引き続き代表取締役等住所非表示措置が講じられます。この場合は、上場会社以外の株式会社が代表取締役等住所非表示措置の申出をする場合の添付書面が必要となります。
* 代表取締役等住所非表示措置が講じられた株式会社であって、株式譲渡制限の定款の定めの設定による変更の登記を申請するものの、従前から上場会社でない場合は、その旨を登記の当該申請書に記載する等を行います。
4 閉鎖された登記記録について復活すべき事由があると認められる場合
清算結了の登記を行い閉鎖されたものの清算が未了の財産があることが明らかとなった場合などにおいては、代表取締役等住所非表示措置を終了させます。
5 その他
代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合であっても、官公署からの請求等に応じ、対象となった住所の情報を提供することがあります。
| ’法務省HP’ 代表取締役等住所非表示措置について 商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)[PDF:162KB] 商業登記規則等の一部を改正する省令の施行に伴う商業登記事務の取扱いについて(令和6年7月26日付け法務省民商第116号法務省民事局長通達)[PDF:492KB] |
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